キュリオ第9話

2007.3.7



ハロモニ。には、投稿完了いたしました。
というわけで「Curiosity BOX」第9話を上げます。





あの台湾から来たという刑事が言っていた、自分たちを「狙っていた」というのが亀井絵里だとわかって、拍子抜けしたような、けれども腑に落ちないような複雑な感情が、ミキティの胸中に渦巻いていた。
かと言って、これを絵里に問い質したところで、どうなるものでもない。
そのことがわかっていたのでミキティは、翌日のスタジオ収録でもいつものように振る舞った。
けれども、自分だけが知り得たことを明かさずにいるということは、予想以上に苦しいものだった。
そうすることが正しいと頭ではわかっていても、自分の感情を偽り、完全に演じきることがいかに難しいか、それまでのプロ生活で痛感していた。
だからこの日は、不自然でない限り、人との接触を避けるようにしていた。


紺野は、そんなミキティの変化に気づいた一人だった。
「どうしたんだろ。美貴ちゃん、いつもより元気がなかったみたい」
楽屋でそんなことを考えつつ、次のスタジオへは早めに向かおうと、ドアノブに手をかけたとき、部屋のすぐ前で話し声が聞こえてきたのだった。
「…ところで小春は、大丈夫?昨日の『リボン』じゃ、ずいぶん派手に転んでたけど」
「やっぱり、そう思いますか?愛ちゃん、どうしたらいいですかね」
「ホラ〜、しっかり。教育係っていう伝統はさ、モーニング娘。を守ってきた強さの秘密だと思うからさ」
愛ちゃんとさゆの二人がドアの前に立ち止まったまま話し込んでいたので、紺野は出て行くタイミングを完全に逸してしまった。
「でも、小春ちゃんは大丈夫ですよ。頑張り屋ですから」
「だから心配なのよ」
「え?」
「頑張り過ぎてないかなって。何か聞いてないの」
「小春ちゃんからですか?それはないんですけど…」
「けど…?なに」
「小春ちゃんって、紺野さんのが初めてなんですよね〜。メンバーの卒業」
それまで聞くともなしに聞いていた二人の会話に、いきなり自分の名前が出てきたことに紺野は驚いていた。
「ホラ、小春ちゃんって、石川さんと入れ替わる形で入ってきたじゃないですか。わたしたちは、何回か経験してますけど」
「卒業…ね。あれは、何回、経験したって変わらないよ」
「それは、もちろん、そうなんですけど…でも、夏先生から言われたんですけど、見に来てくれるみんながいるんだから、」
「うん…」
「高橋さん?」
「え?…ああ。小春ちゃんが落ち着かないのも無理ないと思う。わたしだって…、」
「えっ」
「…あ、何でもない。とにかく相談に乗ってあげてね」
「わかりました」
「じゃあ、行こ!」


紺野がドアを開いたとき、もう二人は立ち去っていた。
自分が残していく後輩、そしてずっと一緒だった同期メンバーの胸のうちを聞いたのは、やっぱりツラかった。
昨日、出会った白い杖を持ったファンの子が言った言葉が蘇る。
「お願い!モーニング娘。を辞めないで」


着信音が、紺野を現実へと引き戻した。
メールは、見覚えのないアドレスからだったが、その内容を見て誰からなのかはすぐにわかった。
それは、ロン刑事からのメールだった。


つづけ…