キュリオ第8話


例によって、長くなるので「続きを読む」にしています。
開いてご覧ください。
大丈夫ですよ。毒は入ってませんからw





その声にびっくりした猫が、いつの間にか開いていたドアから表へと逃げ出した。
「ああっ、逃げたよ」
「待って、田中っち!そう、みんなも。この部屋から出ないで!」
突然ガキさんが、高らかに宣言した。
「ちょっとぉ、さっきの猫はどうするのよ」
「動かないで、まこっちん。ネコちゃんを連れ込んだ犯人は、この中にいます!」
その口調は断定的だったが、そこにいた人物には何の感銘も与えなかった。
どう見ても、にわか探偵にしか見えなかった。
ひょっとして、きのう見たテレビに影響された?
誰もが心の中でツッコんでいた。
得意げに言ってるガキさんのセリフは、悲しいくらい型にはまっていた。
だが、本人は、そんなこと、まったくもって気にする様子もなく、メンバーに今日の行動について尋ね始めた。
いきなり始まったガキさんの探偵ごっこに付き合うメンバー。
それぞれに個性的すぎるアリバイが続々と出てきた。


「う〜ん」
「どうしたのガキさん?」
「どうやら迷宮入りね」
「早っ!まだ、絵里たち7人に聞いただけじゃん」
「7人?えっ、7人って、、、ちょっと待って、カメ。ちょっと、落ち着こうね」
「落ち着いて、ガキさん
「大丈夫。わたしは大丈夫。え〜っと、10人からわたしを引いて〜9。こんこんは予備校だから〜8…えっと、1・2・3・4…おおっと!吉澤さんは」
「もう、しっかりしてよ〜。休憩の最初っから、いなかったじゃん」
そんな二人の会話に、れいなが入ってきた。
「そ〜言えば、吉澤さんって、最近怪しいよね〜」
「怪しい?」
「そう、そう。帰るのが異常に早くない。ひょっとして…」
盛り上がり始めた3人の話を聞きながらも、ミキティには、どうしても吉澤が仔猫とじゃれている様子がイメージできなかった。
「…フットサル?ちがう、ちがう。もっとプライベートな何か…」


「あれっ、あそこにいるのって吉澤さんじゃ?!」
れいなの声に振り向くと、窓から吉澤の姿が見えた。
後ろ姿だったが、あのジャージ姿は、間違いようがなかった。
吉澤は、立ったまま男と話をしていた。
その男の顔を見た途端、ミキティはドアを大きく開いて、走り出していた。


その男は、昨夜、消えた刑事だった。


「よっちゃん、今のって」
全速力で走ってきた息を整えるのももどかしく、ミキティは尋ねた。
あの台湾から来たという刑事は、すでにその場を去った後だった。
「えっ、今の?…ああ、さっきの刑事さんか」
「知ってるの?!」
「なに〜?ミキティ、どうかした?」
吉澤は、こんなに取り乱すミキティを見たことがなかった。
「いいから。何の用で、ここへ来たの」
「また〜、そんな不機嫌そうなカオして」
面白いものを見るときのように、吉澤の顔が緩む。
「ちゃんと答えて!呼び出されたの?!」
「え、ちがうって。少し話をしただけ…、ちょっとミキティ!どこ行くのよ」
そう遠くには行ってないはずとの予想に反して、アスファルトには陽炎が立ち昇っているだけだった。
午後の強い光を見通そうと、目を細めてみても、どっちの方向に去ったのかさえわからなかった。


また逃がしてしまった。。。


吉澤が追いついてきた。
そして、立ちつくすミキティの背中に声をかけた。
ミキティ、あんたの方がヘンだよ。何か、わたしに隠してることでもあるんじゃ…」
このモーニング娘。4代目リーダーは、時折、ミキティが驚くほど鋭いことをズバッと聞いてくる。
「詮索する気はないけど、、、相談したいことがあったら言ってよね」
「別に…」
咄嗟に出た嘘だった。
「それより、あいつとしてた話って何だったの?」
「あいつって…そんなに悪い人かな?なんだか懐かしい面影してたけど」
「まあ、アジア系だからね。ひょっとしてよっちゃんもヨン様とかにハマるタイプ?」
「そりゃあ、カオリンだろ」
「じゃなくて〜、何か変なこと言われなかった?」
和み始めた空気を断ち切って、再び吉澤に詰め寄る。
「変って言えば、うん、ヘンだったな〜確かに。…ミキティ、きゅりお何とかって、聞いたことある?」
「きゅり、お?それ日本語?」
「分かるわけないじゃん。あの人、ロン刑事だっけ、それを言いかけたと思ったら、そこ、通りかかった亀ちゃんを見るなり、何にも言わずに行っちゃったんだから」
「亀ちゃん?そんなはずないよ。一緒に稽古場にいたんだから」
そう、確かにあのとき、稽古場を出たのは自分が一番最初だった。
その後で絵里が追いかけてきたとしても、自分を追い越したんだったら、すぐにわかるはずだった。
それとも、ミキティが通った経路を使わずにあそこへ行けた近道があったのか?
「いや、あれは絶対、亀ちゃんだったよ。そう、確か仔猫を追いかけて走ってった…」
そこから先、吉澤の言葉は耳に入らなくなった。
ミキティは急に思い出した。
あの猫、どこかで見たと思っていたら、、、
コンビニで見せられた防犯ビデオに映っている少女が、抱えていたのだ。


つづけ…