紺野あさ美ver.GATAS BRIRIANTIS HP.


長距離走が得意だったわたしは、ずっと以前は個人競技が好きだった。


先週の日曜日にちょっとした出来事があった。
わたしの友人に、あるサッカーチームの熱狂的サポーターとも言える人物がいる。ごひいきのチームの試合なんだけど余ってるチケットがあるって言ってたのでわたしが買いたいって申し出たとき、周りの友人たちからひどく驚かれた。
友人たちの話では、おっとりしたわたしがサッカー観戦なんて、全然イメージじゃないってことだった。


そして日曜日。競技場の緑の芝は午前中の雨にしっとりと濡れていた。しかし観客は超満員。スタンドでも対決ムードが盛り上がっていた。友人の熱狂ぶりには驚かされた。試合開始前から立ち上がってサポーターソングを絶叫している。まるで別人のように、でもいきいきとしていた。
試合は押されに押されまくっていた。
結果は惨敗。


試合後、友人はさぞかしがっかりしているだろうと思っていたが、意外なほどにけろっとしていた。
「ねえ、あさ美。サッカー見に来て後悔してない?」
わたしに気をつかって、そう言ってくれた。悪い子じゃないのだ。
「あ、全然。楽しかったよ」
「うそ」
「ホントだよ〜」
「だってさあ、うちのチームがやられたってぜ〜んぜん悔しそうじゃなかったし、相手だって汚い反則してたのにボーっと見てるみたいだったじゃない」
「あ、それは…」
そ〜いうトコ見られてるんだ、って、ひぇ〜ってなっちゃったけど、彼女は何かに気づいたみたいに続けて言った。
「そっか、ゴメン。あさ美って、もしかしてアウェーサイドに入りたかったとか」
「ううん。違う、違う!」
「そう?じゃあさ、あさ美の好きなチームって、あるの?」
「あ、うん…。あるよ」
「へえ〜、やっぱりそうなんだ、で、どこよ、どこよ」
にわかに喜色満面って感じで問いただしてくる。言いにくかったが、正直に答えることにした。
ガッタス
「それ、…日本のチーム?」
「うん、フットサルチーム」
「へぇ〜、フットサルも見るんだ。強いの?」
「ん〜…そんな常勝ってわけじゃないんだけど、一番の長所はチームワークかな」
「何よ、それ。弱そ〜」
彼女はおもしろそうに笑ってる。
「でも、、、負けたら泣いて、勝ったらみんなで喜ぶんだよ」
「あっ、そ〜いうのおもしろそう!じゃあさ、今度、その試合見に行こうよ」
「えっ!?うふふふ」
わたしは笑ったまま、彼女の誘いには答えなかった。
この日、わたしはスタジアムで試合中、実はずっとゴールポストを見ていた。
何だか無敵な自分が帰ってきたような気がした。
「今日は、ありがとう。本当に来てよかった」
「わたしも、チケット助かったよ。それと、さっきの話だけど…」
「なに?」
「思い出したよ。前はうちのチームも、もっと『よわよわ』でさ、でも、もっとこう、ガッツのあるいい選手がいたんだ。あの頃のチームも好きだったナ」
わたしたちは二人とも満たされた思いで、改札で別れた。