キュリオ第一部 完


昨年12月から、何とか続けて来られた「Curiosity BOX」(キュリオースティ ボックス)ですが、本日の第11話で、いったん第一部は完結になります。


第12話は、第2話の続きということになります。
なぜか。
それは、キュリオで語られる時間の流れを整理すると

3話、4話、5話、6話、7話、8話、9話、10話、11話(1話、2話)12話…

となっているからです。
現実の時間で言うと、第1話・第2話は2006年7月13日の深夜に起きた事件なのですが、第3話はそれを遡って2006年6月からスタートしています。
そして本日、更新する第11話は、2006年7月13日の午後が舞台。
つまり、ようやく第1話のところまで追いついたということになります。


ということで、繰り返しになりますが、第12話は、第2話の続きからストーリーが始まります。
そちらの方も、よろしくお願いします。
それでは、第一部完結編をどうぞ!





紺野の中にある強い気持ちに触れたミキティは、いつの間にか自分が忘れかけていたことを思い出した。
自分自身もロン刑事と対決する前に、この胸のつかえを取り除いておく必要があるのだ、と。
モヤモヤの原因は、よくわかっていた。
それには、面と向かって「本人」に問い質すしかなかった。
なぜ自分たちを見張っていたのかと、もう、亀井絵里に直接、聞くしか…


7月の空は、カラッと晴れ上がっていた。
第一回グッドウィルカップ決勝が行われるその日、ミュージカル「リボンの騎士」もいよいよ大詰めのリハーサルが行われていた。
「亀ちゃん、ちょっといい?」
休憩時間、ミキティは絵里を呼び出した。
「いいですよ〜。なんですかあ」
涼しい顔で近づいてくる。
このペースに、巻き込まれてはいけない。
「待って、あなた、」
「わたし?藤本さん、どうかしたんですか?」
「あ…え〜っと」
もっとストレートに聞くつもりだったが、警戒心のなさ過ぎる相手というのも、かえってやりにくいものだった。
が、時間は限られている。
ロン刑事が紺野と会おうとしているのは、もう今夜だった。
ミキティは、思い切って聞いてみた。
「最近、…誰かに狙われてるって感じたことある?」
「え〜、ストーカーさんとかですか?えへへ…仕方ないですよね〜。絵里は、かわいがられ担当ですから」
勘違い担当が、また出た…と思ったが、今はそんなのにツッコんでいる余裕がなかった。
「覚えがあるの?」
「狙われるって、誰からですか?藤本さん、知ってたらケチケチしないで教えてくださいよ〜」
勇ましいトルテュのメイクとはかけ離れた笑顔で、絵里は答える。
機材置き場にこもった熱気が、ミキティを徐々にイラつかせていた。
「ケチケチしてるわけじゃないから言うけど、台湾から来た刑事って言ったらわかる?」
「え…」
数秒の間が空いた。
決して、短くはない間。
唇に指を当てた絵里の表情は、真剣に考えているようだった。
「全然、わからないんですけど…」
答え方が、素にもどっていた。
嘘をついている感じではなかった。
だがミキティは、真実が知りたかった。
「ロン刑事って、聞いたこともない?」
「ドン刑事って」
「ドンじゃないよ、ロ・ン!」
「ありません」
どうやら本当に知らないようだ。
でも、それならどうして絵里が自分たちを見張るような行動に出たのかが、わからない。
「あんたのことを、ロン刑事って名前の男が聞きに来たの。コンビニの防犯ビデオに残ってた映像を見て」
「コンビニ…」
初めて絵里の顔に、焦りの色が表れた。
ここぞとばかりミキティは、畳みかけた。
「あれは亀ちゃんだった。そのビデオ、わたしも見たもの。わたしだけじゃないよ、こんこんも。だから間違いないよね。遠くから見てたから最初はわからなかった、暗かったし。でも猫を抱えて見てたよね。こんこん達からは隠れようとしてたけど、ビデオでは、あいにく丸見えだったってワケ」
ミキティが語っていくに連れて、絵里の挙動が明らかに怪しくなる。
「えっ、ちょっと待ってください。絵里はナンデ?絵里は何をしてるんだろう今?…もうワケわかんないこと言わないでくださいよ、まったく困ったリーダーさんなんだから。ホラ、もう行かないと」
そう言い残して、その場を後にしようとした絵里を見て、ミキティの中で何かがつながった。
自分の仮説を、自分でも馬鹿げているとは思った。
だが、、、
それしか考えられない。
あのとき、コンビニに現れたもう一人の絵里、少し前から自分たちを見張っていたという絵里、
それは今の様子から見て、目の前の絵里と同一人物だ。
絵里と、あの台湾から来たという刑事しか知らない秘密…
「あんた、未来からきたんでしょ」


「な、なに言ってるんですか。そんな…絵里、ちょっと気まずいですよ」
嘘をつけない性格なのだろうか…
リーダーと言い間違えただけだと言われれば、それこそ、こちらに証拠があるわけでもなかった。
タイムマシンなんてSFや科学だけのものだと思っていたし。
けれども目の前の絵里が、それを笑い飛ばすこともできないほど、いっぱいいっぱいになっているのは事実だった。
「気まずいでしょ、そりゃ。店内にも亀井絵里、そして店の外にも亀井絵里。二人の亀井絵里が同時にビデオに映っちゃったんだもの」
「今、ここに、そのビデオありますか?見せてくれなきゃ、絵里もわかりません」
明らかにうろたえている様子からいって、これが真相だったのか。
だが…
「じゃあ、それは、いいわ。もし、それがホントだとしても、亀ちゃんならタイムマシンを使って悪事を働く心配はないし」
「そ、そうですって。さすがは藤本さん。メンバーのことを考えてくれてますよね〜」
「ふふっ」


…先日、紺野の中にある強い気持ちに触れたミキティは、いつの間にか自分が忘れていたことを思い出していた。
ロン刑事と対決する前に、この胸のつかえを取り除くのは、自分のためでもあったのだ、と。
自分はもともと、陰でコソコソとかは性に合わなかったはずなのに。。。
そう、
わたしは藤本美貴
白黒ハッキリつけないと気が済まない性格
それは、自分が一番わかっていたはずだ。
「じゃあ、亀ちゃん、その代わり教えて」
「え…な、な、何をですか?」
「キュリオって何?」



(第一部 完)



http://youtube.com/watch?v=O08lvuzlAx0